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 タラの心 The Heart of Tara
再生[Flash]12min.

  原版所蔵 早稲田大学演劇博物館
 クレジットあらすじ解説参考文献 
クレジット
アメリカ映画
セントアー社製作
アメリカ封切1916年3月4日
全5巻

製作:デイヴィッド・ホースリー
監督:ウイリアム・J・ボウマン
脚本:セオドジア・ハリス

出演:
キャプテン・デルマー :ウイリアム・クリフォード
ラジャー・セリム :シャーマン・ブレインブリッジ
タラ、ラジャーの最初の寵姫 :マリー・ジェイムズ
ソーマ、ラジャーの現在の寵姫 :マーガレット・ギブスン
ドロシー・デルマー :マーヴェル・スペンサー
グレイ中尉 :ウオルター・スペンサー
シング、インド人スパイ :エドワード・アレクサンダー
サハン、スパイ助手 :エドワード・ロバーツ
ティムル、別のスパイ :ゴードン・ラッセル
あらすじ
 キャプテン・デルマーは20年ぶりにインドのタワー駐屯隊の指揮官になる。彼にはある秘密の任務があった。それはイギリス国王の所有であったがなくなってしまった有名な宝石を捜すという任務である。インドの王子、ラジャー・セリムは、建前上キャプテン・デルマーに忠誠を誓うべく渡された公文書を読んでいたが、それを読みながらかつて自分が愛していた女性タラの心を奪ってしまった若き日のこのキャプテンへの憎悪の過去を思い出していた。

 キャプテン・デルマーは本当にこのインド人女性タラを愛しており、イギリスへの帰還を命じられると、彼女との結婚を決意した。彼女を連れに庭園に戻ると、キャプテン・デルマーはそこに彼女の遺体を発見する。彼女がなぜ死んだのか、不明のままであったが、デルマーは彼女が身に着けていた見事な宝石を奪おうとしたインド人の奴隷によって殺害されたに違いないと考えた。

 彼は失意のままイギリスに戻り、その後イギリス人の女性と結婚した。その女性との間にできた娘ドロシー・デルマーはいまや立派な女性に成長し、20年ぶりのインド赴任に際し、父に同行してきたのである。

 ラジャーはかつての寵姫タラに対して秘密の、しかし恐るべき復讐をしていたのだった。庭園で宝石を奪い彼女を刺し殺した犯人は実はラジャーであった。キャプテン・デルマーは帰国せねばならなかったため、ラジャーによる復讐を免れていた。だが駐屯隊の指揮官として彼が戻ってきたため、ラジャーの復讐心に再び火がついた。ラジャーは巧みに自分のこの復讐心を覆い隠し、外見上は平常心でキャプテン・デルマーとその娘ドロシーと対面した。

 ラジャーはドロシーが自由に使えるようにと、自らの宮殿の召使たちを彼女に与えた。召使の中のリーダーはサハンという男だが、彼はラジャーのスパイで、彼を通じてラジャーは自分の陰謀を実行しようとしていた。宮殿から駐屯地への秘密の通路があり、秘密の扉からキャプテン・デルマーの書斎に入ることができた。この秘密の通路を通って、スパイはメッセージを運んだ。ラジャーはスパイに命じ、電話線を切断させ、キャプテンとその娘を誘拐し、宮殿に連れてこさせようとする。

 嫌疑をかけられないように、バンガローに火をつけ、キャプテン・デルマーと娘のドロシーが焼け死んでしまったように見せかけられた。電話線が切断されていることに気づいたキャプテンは、娘ドロシーの許婚者でもあるグレイ中尉に命じ、調査のために最寄の駐屯地に向かわせる。中尉が戻ってくると、彼はバンガローが焼けてしまっていることを知り、ラジャーの計略どおりに、中尉はキャプテンとドロシーがこの火災の犠牲者となってしまったと思い込む。

 一方、キャプテンとドロシーは、ラジャーに捕われていた。ラジャーはキャプテンを独房に投げ入れ、娘は自分のものにしてしまうと脅す。父が連れ去られるのを目の当たりにして、ドロシーは気も狂わんばかりになる。ラジャーの現在の寵姫はソーマという女性であったが、ラジャーの心は過去に引きずられており、彼女はラジャーから真に愛されてはいなかった。ソーマはドロシーがこれからどのような目にあうかを知っていたが、彼女にドロシーを助けるような力はなかった。

 グレイ中尉は秘密の通路を発見する。この通路を怪しんだ彼はここを通って宮殿に入り、錯乱状態になっていたドロシーと彼女のそばにいたソーマと出くわす。恋人と出会うことで、ドロシーの心は正常な状態に戻る。ラジャーがやってくることを察知したソーマは、グレイ中尉にキャプテンとドロシーを救いたければ、救援部隊が必要であることを語る。中尉は宮殿を脱出し、最寄の駐屯地にいき、騎兵隊を救援部隊として宮殿に向かわせる。

 一方、ラジャーはドロシーが正気に戻ったことを知る。
 彼はかつてタラが身に着けていた宝石をドロシーに差し出す。宝石を身に着けたドロシーを見たラジャーは、その美しさに見とれる。彼はキャプテン・デルマーを連れてこさせ、彼のハーレムの寵姫の姿をしたドロシーを見せ付ける。ラジャーは自分の飼っているライオンに餌をやらず腹をすかさせるよう命ずる。ソーマはラジャーが来たら刺し殺そうと、ドロシーの部屋に隠れている。

 キャプテンは腹をすかせたライオンのいるジャングルに連れて行かれる。最後の命令を下す前に、ラジャーはドロシーを迎えにいく。騎兵隊と共にグレイ中尉が宮殿の前にやってくるが、彼らは入場を拒まれる。戦いが始まる。この騒乱の中、キャプテンは期を見て逃走し、娘ドロシーを救いに向かう。ソーマはラジャーの刺殺に失敗するが、ドロシーは救われる。イギリス政府が捜し求めていた宝石は、ドロシーが身に着けていたものであることが分かる。

(Moving Picture World (March 4, 1916) pp.1544-1546より)
解説
 今回復元されたアメリカ映画「タラの心」は本来全5巻の作品であるが、私たちの発見したプリントは1巻分のみである。このプリントが、5巻ものの映画の何巻目に当たるかは不明である。35ミリのオリジナル可燃性プリントは全体がセピア色に染色されており、復元は35ミリのカラー・ネガ(インターネガ)を作成することによって行われた。テレシネには24f.p.s.の速度でかけたため、映像の動きが実際よりもだいぶ速くなっている。プリントの上映に当たっては18f.p.s.くらいの速度が望ましい。

 この映画はセントアーCentaurという会社の製作になる。この会社はネスターNestorという名称でハリウッドにできた最初の映画会社ということで、映画史的にも名前だけはよく知られた会社である。事情が少しばかり込み入っているために、簡潔に説明しておく。

 デイヴィッド・ホースリーは映画館(当時はニッケルオデオンと呼んだ)のブームに乗じて、1907年に映画の劇場経営を始めるが、この経営に失敗しかなり大きな損害を出してしまう。翌1908年、彼は今度は映画製作に乗り出し、ニュージャージー州ベイヨンに小さな撮影所を建設する。これがセントアー・フィルム・マニュファクチュアリング・カンパニーの始まりである。

 だが1908年にアメリカのメイジャー系の映画会社は市場の独占を目指してモーション・ピクチュア・パテンツ・カンパニーというトラストを形成する。このトラストに参加できなかったセントアー社は事実上インディペンデント系の映画会社として、メイジャーとの壮絶な戦いに参加せざるを得なくなる。メイジャー系のトラストが大きな勢力を振るった1909年には殆どまともな映画製作ができなくなってしまうが、ルドヴィグ・G・B・アーブが経営に参入し、映画製作は再開される。しかし今度はホースリーとアーブが仲たがいをしてしまい、アーブはこの会社を出てクリスタルCrystal社を設立する。

 このあと1910年にホースリーは上述のネスター社を作り、セントアー社の名前は消えてしまうのだが、1911年にネスター社が東海岸に移り、ハリウッドに最初のスタジオを建設してまもなくすると、ネスター社の作品を配給し始めたユニヴァーサル社とホースリーが衝突してしまう。結局ホースリーはニュージャージーに戻り、古巣のベイヨンに新しいスタジオを建設し、セントアーという名称の会社を再び立ち上げる。1913年のことである。

 「タラの心」を製作したセントアーはいわばこの第2のセントアー社の作品であった。その後デイヴィッド・ホースリーはロサンジェルスにスタジオを建設し、西海岸での映画製作を再開させる。「タラの心」もこのロサンジェルスのスタジオで撮影された。

 1916年当時セントアーの映画を配給していたのはミューチュアルMutual社であった。このミューチュアル社はこの時代にミューチュアル・マスターピクチュア・デ・ラックスという名称で長編劇映画を封切っており、セントアー社の「タラの心」もこの特作長編映画のシリーズの範疇に入れられた。デイヴィッド・ホースリーは1916年の初めに映画製作のスケジュールを週ごとに1本の5巻ものの長編劇映画と1本の1巻ものの喜劇映画を製作していくことにしており、「タラの心」はこのスケジュールが定められてから第二番目の5巻もの長編劇映画であった。

 「インドを舞台とした愛を主題に持つロマンス。ボストックの指導による動物たちの巧みな導入をちりばめたスリル」(Moving Picture World, March 11, 1916, p.1656)といった見所が宣伝部による広報で強調されており、物語から判断するに、クライマックスのライオンの出てくる場面などが、見せ場になっていたのだろう。

 デイヴィッド・ホースリーは、スケジュールを埋めるだけのような映画を作るのでなく、プロットに重点を置いた真に楽しめる教育的な映画を作ることをモットーとしていた。そうした観点から彼は、ボストックの動物たちを使ったサーカス映画などを企画し(Reel Life, January 8, 1916, p.1)、「タラの心」にも調教された動物たちが登場した。同時代の批評は概して好意的である。New York Dramatic Mirror誌は次のような評を載せている(評者の署名はS)。  
「この題名から判断してわれわれはアイルランドの民話の映像化を予想してしまう。ところが驚いたことに、冒頭からインド人が登場し、映画全体はオリエンタルなセッティングとなる。オリエンタルな陰謀、白人の娘、総督といった昔ながらの物語ではあるが、その中にはかなりオリジナルな展開があるということができる。映像に適切な場所を与えるために無駄な浪費をするようなことが一切なく、オリエンタルな背景も常に巧みであり、効果的である。キャストはありきたりだが、唯一の例外はこれによって長編映画デビューをした若い女性マーヴェル・スペンサーであろう。彼女は大変個性的な顔をしており、感じのいい個性を持っており、いずれ人気が出ることだろう。メイクアップは、この種のコスチューム・プレイとしては珍しく良いものである。撮影はもっとも良いところですら、特に述べるほどの価値のあるものではない。字幕はひどい。」(New York Dramatic Mirror, March 18, 1916, p.33)
 Motion Picture News誌の評では興行の安全という見地から、この映画を好意的に見ている(評者はHarvey F. Thew)。
「興行者の立場から見るなら、これは良い映画である。全般的に観客の気を惹きつけるような質を備えている。魅力的なセッティングと景色、(常に論理的とはいえない)メロドラマ的なストーリー、それに動物とアクションだ。このような映画こそ適切に宣伝すれば興行者にとっては収益を上げてくれるのだ。」(Motion Picture News, March 18, 1916, p.1617)
 この時期のセントアー社の女性スターはマーガレット・ギブスンであった。彼女はこの映画ではソーマの役を演じている。この役はどちらかというと脇役で、彼女の魅力は必ずしもここでは目立ってはいなかったようだ。Motography誌の評は次のようなものである。
「『タラの心』の広告の頭にはマーガレット・ギブスンとボストックの動物たちが記載されているのだが、ミス・ギブスンも大変有名な動物たちも目立った役割を演じていない。ラジャー・セリムのハーレムの寵姫である自己犠牲的なインド人女性を演ずるミス・ギブスンは、その姿も演技もしっかりとしている。セオドジア・ハリスによるこの物語は完全なメロドラマで、メロドラマの信じがたい登場人物とシチュエーションを持つものである。しかしこの劇の精神を捉えると、ラジャーの不可能な陰謀と他の登場人物のあまりインテリジェントではない行動に関心を持つことができる。『タラの心』を監督したウイリアム・ボウマンはこの材料を用いてかなりのことを行った。」(Motography, March 18, 1916, p.650)
参考文献
セントアー社に関して
  Anthony Slide: The New Historical Dictionary of the American Film Industry. (Scarecrow Press, 1998)
デイヴィッド・ホースリーに関して
 Big Stories Is Horsley Slogan., in Reel Life. (January 8, 1916) p.1
 Interesting Horsley Productions Coming., in Moving Picture World. (March 11, 1916) p.1656
「タラの心」に関して
 Reel Life. (February 19, 1916) p.6
 Reel Life. (February 26, 1916) p.3
 Moving Picture World. (March 4, 1916) p.1544
 New York Dramatic Mirror. (March 18, 1916) p.33
 Motion Picture News. (March 18, 1916) p.1617
 Motography. (March 18, 1916) p.650
(執筆:小松 弘=21COE事業推進担当者) 

利用規程

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 このフィルム映像に関する調査研究は、2004年度早稲田大学演劇博物館21世紀COEプログラム「演劇の総合的研究と演劇学の確立」(アーカイブ構築研究コース)の成果による。 フィルム復元およびデジタル化については2004年度 科学研究費補助金研究成果公開促進費(データベース)「演劇情報総合データベース」の成果による。
 視聴方法 映像の視聴にはFlashPlayerが必要です。
 

更新情報
2006.02.24- 試験公開

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このページの最初の公開:2006/02/24 作成者:ymmt
このページの最近の改訂:2011/02/09 改訂者:ohno